裃のお勉強部屋

物理や数学のおぼえがき

トロピカル幾何というより計算(8)

さて、以前積分は無理やりしたけど微分無理じゃね、と言ったところ、Tropical Differential Formというのを見つけてしまった裃です。
うーん、微分形式なら行けんの……?

さて、トロピカルな二次曲線です。
二次曲線ってのは一般式で以下のように書けるやつです。
\begin{eqnarray*}
ax^2+bxy+cy^2+dx+ey+f=0
\end{eqnarray*}
ですが、あんまり一般的なのをやるより、対象を絞って、後から増やしていきましょう。
一番単純な二次曲線というと、まず原点中心円でしょうから、こういうイメージしやすいのから手を出すわけです。

しかし後で見るように、あんまりこの調べ方はあまり良くありません。
てなわけで今日も楽しく暗中模索。

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原点中心円といいますと、こんな式です。
\begin{eqnarray*}
x^2+y^2=r^2
\end{eqnarray*}
半径は$r$です。

さて、ここでこの式の変形をしますと、
\begin{eqnarray*}
&&x^2+y^2-r^2=0\\\
&&\frac{1}{r^2}x^2+ \frac{1}{r^2} y^2-1=0
\end{eqnarray*}
の二つの変形が考えられます。それぞれトロピカル演算で翻訳しますと、
\begin{eqnarray*}
&&\max{(2x,2y,-2r)}=0\\\
&&\max{\left(2x-2r,2y-2r,-1\right)}=0
\end{eqnarray*}
になります*1
なんで2パターンもあるんだ。
これ、同じグラフになるんでしょうか?(すっとぼけ)
ひとまず書いてみます。

$\max{(2x,2y,-2r)}=0 ,r=1$




$\max{\left(2x-2r,2y-2r,-1\right)}=0 ,r=1$



案の定違うグラフになりますね。

$r=2$の場合はというと、
$\max{(2x,2y,-2r)}=0 ,r=2$




$\max{\left(2x-2r,2y-2r,-1\right)}=0 ,r=2$



というわけで、式の変形の選択によって、グラフの拡大縮小あるいは平行移動が起きてしまいそうです。

それもそのはずで、今回のように移項して陰関数($=0$形の関数)を作ると、全体に"普通の意味で"0以外の掛け算割り算しても、"普通の意味でのグラフ形状"は変わりません。
しかし、トロピカルではこの全体の掛け算割り算が全体の足し算引き算になるわけですから、トロピカルの視点でグラフを書くと違うものになり得るわけです。
ところが、普通の意味でのグラフは足し算引き算によって平行移動を起こします。
\begin{eqnarray*}
\begin{matrix}
通常式変形&トロピカル視点&翻訳&通常グラフ上\\\
掛け算&\otimes&足し算&平行移動
\end{matrix}
\end{eqnarray*}
大雑把にいうとこんな対応です。

ですから、トロピカルの視点で違う式だ、グラフだと言っても、書いてみたら同じ形が平行移動しているだけに見えるというのも当然かもしれません。
ひょっとするともっと項を増やすと平行移動だけにとどまらないかもしれないので、ふくみを持たせておきましょうか。

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だいたいそもそもの話として、
\begin{eqnarray*}
&&x^2+y^2-1=0
\end{eqnarray*}
これは
\begin{eqnarray*}
&&1x^2+1y^2-1=0\\\
&&\max{(2x+1,2y+1,-1)}
\end{eqnarray*}
のように、係数が隠れている可能性もあるわけです。

ですから、図形の式スタートで単に式形が違うかどうかばかり考えてもあまり意味がないと言えそうです。
ただし、いわずもがな、ですが、もし何かそのあたりで差異が出るなら、当然式形について一定の手続き、つまり、係数は1として必ずいるもんだと思うか否か、等々ちゃんと統一すべきなのでしょう。

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さらには、正直最初の変形として移項したのも怪しい気がしてきます。
和の逆算としての差が移項の行為なら、それをやった後トロピカルに翻訳するのは翻訳としては完全とは言い難いと思うのです。
つまり、翻訳できない部分を先に処理してから、翻訳してるんですね。
だから、その処理の仕方によって翻訳も変わってしまうと言いますか。

その辺りを回避する説明として、そもそも図形スタートではなく、
\begin{eqnarray*}
f(x,y)&=&x\uparrow_t 2\oplus y\uparrow_t 2\oplus (-r\uparrow_t 2)\\\
&=&(x\otimes x)\oplus (y \otimes y) \oplus (-r\otimes r)\\\
&=&\max{(2x,2y,-2r)}
\end{eqnarray*}
という二次曲線を見ているんだ、と考えるわけです。
たしかにこの方が余計なことを考えなくて済みそうですね。採用。

で、この二次曲線のトロピカル式を、通常の二次曲線の式へ逆に翻訳して、そっちで変形をしてやる。
結果、あらあらこれは円でした、なら許されるような気がします。

というわけで、次回以降はこのやり方で、あらあら双曲線でしたあらあら楕円ですわねあらまぁ放物線だがな、とやっていくことにします。


ちなみに前回から実はそうなんですけど、出てくるグラフの形状はmax-plusを取る場合と、min-plusを取る場合で変わってきます。
その点は他の文献を見る際、気にしてみてもらえたらと思います。

*1:トロピカルに慣れた人には当然の変形かもしれませんが、$1/r^2=r^{-2}$なので、こうなります。