裃のお勉強部屋

物理や数学のおぼえがき

物理のための微分形式練習(1-2)ゲージ場おぼえがき(2)

さて、まだ覚書は続きます。え、そんなに前提条件がいるの? そうだよ。だからそんな簡単に「簡単」なんて言わせないさ。

 

 

変換と共変微分


場$\Phi$が群$G$によって変換されることを考えます。群とは何かというと、対象になにか操作をする、その操作手法だと大雑把に説明しておきましょうか。

一番簡単なところだと図形の平行移動や回転であるけど、もっと広く複素数としての位相の変換とかそういうのも含めています。

群そのものかなり肥沃な数学の大地を成しているからそこに今回突っ込むと帰れなくなる*1ので、今回は「なんか変換するって意味なのね」くらいに考えとくことにしてください。

 

抽象的にこの変換を記述すると、
\begin{eqnarray*}
&&\Phi\mapsto\Phi'=G\Phi
\end{eqnarray*}
さて、このとき、変換で場のラグランジアンが不変だとすると、運動項*2はしっかり不変になっているだろうか? いいかえれば微分の変換はちゃんと綺麗に上のように書けるのかという問いになります。いや、なるでしょという単純な(楽観的な)希望では
\begin{eqnarray*}
&&(\partial_\mu\Phi)\mapsto(\partial_\mu\Phi)'= G\partial_\mu\Phi
\end{eqnarray*}
となっていてほしいわけだが、仮に変換$G$が座標に依存する局所的な量$G(x)$の場合、このような希望は成立しません。

なぜならLeibnizルールのせいで、
\begin{eqnarray*}
&&(\partial_\mu\Phi)\mapsto(\partial_\mu\Phi)'= (\partial_\mu G)\Phi+G\partial_\mu\Phi
\end{eqnarray*}
となってしまうのです。そこで、
\begin{eqnarray*}
&&(D_\mu\Phi)'=GD_\mu\Phi
\end{eqnarray*}
の成立する微分$D_\mu$を考えます。

具体的にこれは
\begin{eqnarray*}
&&D_\mu=\partial_\mu+igA_\mu
\end{eqnarray*}
となりまして、これを共変微分といいます。

共変微分という単語は一般相対論でも出てくるが、確かにニュアンスは近いんですね。

ここで$g$は結合定数と呼ばれる定数で、後に触れるようにゲージ場の相互作用の強さがこの$g$で調整される。ひとまずは一般化のための係数と思っておいてもらえばよいでしょう。邪魔なら1とかにしましょう。

また$A_\mu$は接続1-形式と呼ばれる量で、この変換のために導入される量です。$1-$形式という用語は微分形式で再び登場しますが、大雑把に言うとベクトルです。

つまり「接続用のベクトル$A_\mu$」という意味に過ぎないわけですね。我々の慣れ親しんだベクトルポテンシャル$A_\mu$と同じ記号を用いるのは言わずもがな、実際両者は同一のものであるとのちのちわかります。

実際にこの微分$D_\mu$を用いると
\begin{eqnarray*}
(D_\mu\Phi)'&=&(\partial_\mu+igA'_\mu)(G\Phi)\\
&=&(\partial_\mu G)\Phi+G(\partial_\mu\Phi)+igA'_\mu(G\Phi)
\end{eqnarray*}
となり、余分な項$(\partial_\mu G)\Phi$を$igA'_\mu(G\Phi)$により相殺できます。

相殺するために$A_\mu$の変換則は、
\begin{eqnarray*}
(\partial_\mu G)\Phi+\underline{G(\partial_\mu\Phi)}+igA'_\mu(G\Phi)&=&GD_\mu\Phi\\
&=&G(\partial_\mu+igA_\mu)\Phi\\
&=&\underline{G(\partial_\mu\Phi)}+igGA_\mu \Phi\\
(\partial_\mu G)\Phi+igA'_\mu(G\Phi)&=&igGA_\mu \Phi\\
igA'_\mu(G\Phi)&=&igGA_\mu \Phi-(\partial_\mu G)\Phi
\end{eqnarray*}
$ig$を移項し、$\Phi$を消します、そののち最後に両辺に右から$G^{-1}$を作用させると、
\begin{eqnarray*}
A'_\mu G&=&GA_\mu-\frac{1}{ig}(\partial_\mu G)\\
A'_\mu&=&GA_\mu G^{-1}+\frac{i}{g}(\partial_\mu G)G^{-1}
\end{eqnarray*}
ここで、$GG^{-1}=1$より、
\begin{eqnarray*}
\partial_\mu(GG^{-1})&=&(\partial_\mu G)G^{-1}+G\partial_\mu G^{-1}=0\\
\therefore (\partial_\mu G)G^{-1}&=&-G\partial_\mu G^{-1}
\end{eqnarray*}
なので、
\begin{eqnarray*}
A'_\mu&=&GA_\mu G^{-1}-\frac{i}{g}G\partial_\mu G^{-1}
\end{eqnarray*}
を得ます。

このように$A_\mu$は$D_\mu\Phi$のようなベクトルとは異なった変換を受けることがわかります。そもそも共変微分に現れる特別なベクトル、という事ができるわけです。

このためこのベクトルは他のベクトルと区別して“接続”$1-$形式と呼ばれるんでしょう。

この$A_\mu$は変換$G$に付随して決まります。

変換$G$の情報を含ませるべく、変換の生成子$T_a$を用いて、
\begin{eqnarray*}
&&A_\mu=A_\mu^aT_a
\end{eqnarray*}
と展開しておくことにしましょう*3

 

共変微分と場のテンソル


さて、以上のような接続$1-$形式と共変微分の定義をもって、共変微分の交換関係を求めてみようとおもいます*4
\begin{eqnarray*}
[D_\mu,D_\nu]&=&[\partial_\mu+igA_\mu^aT_a,\partial_\nu+igA_\nu^bT_b]\\
&=&\partial_\mu\partial_\nu+\partial_\mu(igA_\nu^bT_b)+igA_\mu^aT_a\partial_\nu+igA_\mu^aT_aigA_\nu^bT_b-(\mu\leftrightarrow\nu)\\
&=&
\cancel{\partial_\mu\partial_\nu}+ig\partial_\mu A_\nu^bT_b+\bcancel{igA_\nu^bT_b\partial_\mu}+\xcancel{igA_\mu^aT_a\partial_\nu}+i^2g^2A_\mu^aT_aA_\nu^bT_b\\
&&\cancel{-\partial_\nu\partial_\mu}-ig\partial_\nu A_\mu^bT_b\xcancel{-igA_\mu^bT_b\partial_\nu}\bcancel{-igA_\nu^aT_a\partial_\mu}-i^2g^2A_\nu^aT_aA_\mu^bT_b\\
&=&ig(\partial_\mu A_\nu^b-\partial_\nu A_\mu^b)T_b-g^2(T_aT_b-T_bT_a)A_\mu^aA_\nu^b\\
&=&ig(\partial_\mu A_\nu^b-\partial_\nu A_\mu^b)T_b-g^2[T_a,T_b]A_\mu^aA_\nu^b
\end{eqnarray*}
ここで群$G$の生成子について
\begin{eqnarray*}
[T_a,T_b]=if_{ab}^{\;\;\;c}T_c
\end{eqnarray*}
の交換関係があります。この中の$f_{ab}^{\;\;\;c}$は生成子の取り方で多少変わりますが根本的には変換の群に依存するブツなので構造定数と呼ばれます*5。この式を用いると、
\begin{eqnarray}
[D_\mu,D_\nu]&=&ig(\partial_\mu A_\nu^c-\partial_\nu A_\mu^c)T_c-ig^2f_{ab}^{\;\;\;c}T_cA_\mu^aA_\nu^b\nonumber\\
&=&ig(\partial_\mu A_\nu^a-\partial_\nu A_\mu^a-gf_{bc}^{\;\;\;a}A_\mu^bA_\nu^c)T_a
\end{eqnarray}
この式の第1項,2項は電磁気学の場のテンソルの形と同一になる*6

テンソルというのは大雑把に言ってベクトルの怪物みたいなもので、添字が二個三個四個……とつきます。もっともっと大雑把にいうと二つ添字のあるテンソルは行列みたいなヤツです。

厳密にテンソルとは、というのは変換性でみるべきですが今回の主題からは逸れるのでやめておきます。

 

さて、今は変換の群を一般の群で考えているから、この共変微分の交換関係は電磁気学より一般的な場のテンソルを表現しているといえます。そこで場のテンソルの定義をあらためて、
\begin{eqnarray}
F_{\mu\nu}^aT_a&=&\frac{-i}{g}[D_\mu,D_\nu]=(\partial_\mu A_\nu^a-\partial_\nu A_\mu^a-gf_{bc}^{\;\;\;a}A_\mu^bA_\nu^c)T_a\nonumber\\
F_{\mu\nu}^a&=&\partial_\mu A_\nu^a-\partial_\nu A_\mu^a-gf_{bc}^{\;\;\;a}A_\mu^bA_\nu^c
\end{eqnarray}
とします。

 

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ちなみに共変微分の定義において、
\begin{eqnarray*}
&&D_\mu=\partial_\mu-igA_\mu
\end{eqnarray*}
とすることがままあります。つまり本ブログにおいて$g\mapsto -g$とすることになるので、この場合場のテンソル
\begin{eqnarray*}
F_{\mu\nu}^a&=&\partial_\mu A_\nu^a-\partial_\nu A_\mu^a+gf_{bc}^{\;\;\;a}A_\mu^bA_\nu^c
\end{eqnarray*}
となるわけです。

この辺は文献によってこの点も差異が出るので注意を要します。

 

電磁場の場合


例えば電磁気は構造定数$f_{bc}^{\;\;\;a}=0$であり、$a$に相当する成分も一つだけの場合であるから
\begin{eqnarray*}
F_{\mu\nu}^a&=&\partial_\mu A_\nu^a-\partial_\nu A_\mu^a+\cancel{gf_{bc}^{\;\;\;a}A_\mu^bA_\nu^c}
\end{eqnarray*}

と単純化され、結局
\begin{eqnarray*}
F_{\mu\nu}&=&\partial_\mu A_\nu-\partial_\nu A_\mu
\end{eqnarray*}
を扱うことになります。

各成分は電磁場${\bf E}=(E_x,E_y,E_z),{\bf B}=(B_x,B_y,B_z)$との間に、
\begin{eqnarray*}F^{i0}&=&\frac{E^i}{c},\;\;F^{0i}=-\frac{E^i}{c},\;\;F^{ij}=-\epsilon^{ij}_{\;\;\;k}B^k \\F^{\mu\nu}&=&\begin{pmatrix}0&F^{01}&F^{02}&F^{03}\\ F^{10}&0&F^{12}&F^{13}\\\ F^{20}&F^{21}&0&F^{23}\\ F^{30}&F^{31}&F^{32}&0\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&-\frac{E^1}{c}&-\frac{E^2}{c}&-\frac{E^3}{c}\\\frac{E^1}{c}&0&-B^3&B^2\\ \frac{E^2}{c}&B^3&0&-B^1\\ \frac{E^3}{c}&-B^2&B^1&0\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&-\frac{E_x}{c}&-\frac{E_y}{c}&-\frac{E_z}{c}\\ \frac{E_x}{c}&0&-B_z&B_y\\ \frac{E_y}{c}&B_z&0&-B_x\\ \frac{E_z}{c}&-B_y&B_x&0
\end{pmatrix}\end{eqnarray*}

また、

\begin{eqnarray*}F_{\mu\nu}&=&g_{\mu\lambda}g_{\nu\kappa}F^{\lambda\kappa}\end{eqnarray*}

より、

\begin{eqnarray*}F_{0i}&=&g_{00}g_{ij}F^{0j}=1\cdot(-\delta_{ij})F^{0j}=-F^{0i}\\\ F_{ij}&=&g_{ik}g_{jl}F^{kl}=(-\delta_{ik})\cdot(-\delta_{jl})F^{kl}=F^{ij}\\\ F_{i0}&=&-\frac{E_i}{c},\;\;F_{0i}=\frac{E_i}{c},\;\;F_{ij}=-\epsilon_{ij}^{\;\;\;k}B_k\end{eqnarray*}

つまり、

\begin{eqnarray*}F_{\mu\nu}&=&\begin{pmatrix}0&F_{01}&F_{02}&F_{03}\\ F_{10}&0&F_{12}&F_{13}\\ F_{20}&F_{21}&0&F_{23}\\ F_{30}&F_{31}&F_{32}&0\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&\frac{E_1}{c}&\frac{E_2}{c}&\frac{E_3}{c}\\-\frac{E_1}{c}&0&-B_3&B_2\\-\frac{E_2}{c}&B_3&0&-B_1\\-\frac{E_3}{c}&-B_2&B_1&0\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}
0&\frac{E_x}{c}&\frac{E_y}{c}&\frac{E_z}{c}\\-\frac{E_x}{c}&0&-B_z&B_y\\-\frac{E_y}{c}&B_z&0&-B_x\\-\frac{E_z}{c}&-B_y&B_x&0\end{pmatrix}\end{eqnarray*}
の関係があるわけです。

というのも、前回出てきたベクトルポテンシャルによる表記が念頭にあります。

\begin{eqnarray*}
{\bf E}&=&-\nabla{\phi}-\frac{\partial {\bf A}}{\partial t}\\ {\bf B}&=&\nabla \times{{\bf A}}\\ A_\mu&=&\left(\frac{\phi}{c},-A_x,-A_y,-A_z\right)
\end{eqnarray*}

こいつは例えばベクトルの成分をいくつか抜き出してみると、(電場$E$の式は$c$で全体割り算しておくことを忘れずに)

\begin{eqnarray*}
\frac{E_x}{c}&=&-\partial_x\frac{\phi}{c}-\frac{\partial A_x}{\partial (ct)}\\ &=&-\partial_1A_0+\partial_0 A_1\\ &=&\partial_0 A_1-\partial_1A_0\\ F_{01}&=&\frac{E_1}{c}\\ B_x&=&\partial_yA_z-\partial_zA_y\\&=&-\partial_2A_3+\partial_3A_2\\ &=&\partial_3A_2-\partial_2A_3\\ F_{32}&=&B_1
\end{eqnarray*}

となっているわけです。

 

こんな感じで本ブログでは各トピックごと、ひとまず一般化してから身近な例、遠い例、みたいな感じで、自分の知ってるものがちゃんと表されることを手で確認していきます。

うわー、じみちー。

*1:結果として沼地の栄養と化してしまう。昔は群論病とも揶揄された。

*2:ラグランジアンの運動項はスカラー場の場合$\frac{1}{2}(\partial_\mu\Phi)(\partial^\mu\Phi)$、ディラック場の場合でも場の一階微分を含む。ベクトル場もしかり。本当は各場の方程式ごとに論じるべきなのだが、ここでは運動項の変換性をこの一階微分だけに注目して見積もってみている。

*3:変換の生成子$T_a$とは、$G$の変換を構成する際で基本となる、基底に相当するもの簡単な例でいうと、色を形作るときに必要なのは最低限シアン、マゼンタ、イエローの三色である。液晶ディスプレイでは光の混色なので赤青緑の三色である。この三色をそれぞれ基底としたときに、色はこの三色をどれだけ使用するかで表示することができる。つまり混色(変換)はこの三原色(生成子)をつかって、$255R+124G+10B(=A^aT_a)$のような線形結合で表せる。ちなみにここで表示した色合いはコンピューターでおなじみの256段階の色表示で言うとオレンジ色っぽくなる。

*4:この辺りがほんとうに一般相対論のリーマン曲率なんかと被ってくるんで、嗚呼、理論やってたよかったナァと思うところです。

*5:本当はこの辺は数学的に環の話が必要なのですが、それのあたりの解説は数学の人に任せます。

*6:実際電磁気学のゲージ群では生成子の交換関係が常に0になる。このためこの式は電磁気の場のテンソルを含むといえる。